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Kochankowie mojej mamy 母さんの恋人たち

ポーランド映画 (1986)

ラファル・ヴェグジェニャック(Rafal Wegrzyniak)が主演する 母と子の深刻なドラマ。母は男好きで、アルコール中毒の上、何らかの薬にも頼っている。母は、息子ラファル(本名と同名)の世話は一切しない。それどころか、料理を作るのも、夜更かしして帰ってきた母の面倒を見るのも、ラファルの役目だ。しかし、ラファルは母を恨んだりしない。母は荒れ果ててはいるが、心の底からラファルが好きで、ラファルもまた、母が大好きなのだ。だから、どんな逆境になっても、母はラファルを害する者には食ってかかるし、ラファルは精神状態の不安定な母を救おうと必死になる。映画は、ラファルを中心に動いていくので、ラファルのけなげな母想いと、異様なくらいの甘えっ子ぶりがよく描かれている。家庭内暴力で、母と子が苦しむ映画は多いが、この種の一風変わった母子関係は、2011年のアメリカ映画『リセット』くらいしか思いつかない。『リセット』ではスペンサー・リスト(Spencer List)の天真爛漫さが魅力だったが、この映画ではラファルの屈折した心がより深い演技によって光っている。結末に不満は残るが、観て損はない映画だ。

ラファルの母は、男好き。決して娼婦ではないが、夜な夜なクラブに出かけては、出会いがないかと待った挙句、酔っ払って帰宅する毎日だ。ラファルは、そんな母のために、食べないかもしれない夕食を作り、何度も暖かい湯をバスタブに張り直す。母が万一、自傷行為に走らないように、刃物を隠したり、拘束のためのロープも用意しなければならない。小学校5年生にとっては、あまりに苛酷で、精神的な負担の多い日々だと思うが、そんな苦労も母に「あたしの人生でたった1人の男」と言われると、何でも許してしまう。ただ、母のために夜遅くまで起きていたり、寝起きの悪い母の相手をしたりでランチの準備などしている時間もない。学校には給食などないので、お腹の空いたラファルは、女の子のランチを食べてしまい、先生に叱られ、母を連れて来るよう言われてしまう。定職のない母を連れてこないために「仕事中」と嘘を付くラファル。しかし、ランチを食べた女の子から、母が淫乱だと言われるとカッとなってお尻を叩く。それが原因で、ラファルは今年2つ目の学校をやめ、3つ目に変わることに。その3つ目では、ラファルの高い知能を理解しない教師が、宿題を「丸写し」と思い込んで赤点を付けたことから、また学校をやめることに。その間、母がアパートに呼び込んだ男は2人。1人は気のいい、しかし、人生の敗残者で、ラファルは母に直言してその場から追い出す。だが、もう1人の男ヴィテックはなかなかの曲者で、ラファルがやり込められる一幕も。物語は、いろいろな出来事が重複して進行していく。同じアパートの上階に住むレナ伯母のウオッカ密売騒ぎ、クリスマスのバカ騒ぎ後の母の自殺未遂騒動、そして、軽犯罪での母の逮捕と、それを受けたラファルの児童養護施設送り。ラファルが施設で半年を送っている間に、刑務所を出た母はヴィテックと同棲を始め、刑務所から出たら一緒に住むと約束したラファルを施設から出さないようにする。ある日、施設を抜け出してアパートで2人の暮らしぶりを見たラファルは、絶望して施設に戻る。そして、施設が学期末を迎えた6月、最優秀生として表彰されたラファルの元に、ウェディング・ドレスを着た母が迎えに来る。これからヴィテックと3人で暮らそうと言って。

ラファル・ヴェグジェニャックは、ポーランド人らしい金髪の美少年。これが映画初出演とは思えない見事な演技だ。出演時の年齢は11歳だが、母に甘えるところはもっと幼く見えるし、反発するところはもっと年上に見える。翌1987年の『Zlota Mahmudia』でも主演している(下の写真)。こちらは、悪戯で漁船に隠れて乗り込んだ少年が、海に沈んだ宝箱探しに巻き込まれる子供向き映画。
  


あらすじ

映画の冒頭、母と子のそれぞれの「ライフスタイル」が描かれる。母は、ナイトクラブのような場所に 一人で入って行く。息子ラファルはアパートで夕食の準備をしている。箱からスパゲティを取り出し(1枚目の写真)、湯気を立てている鍋(写真: 手の左側)で茹でるつもりだ。貧弱な食卓には皿が2つ載っているので、母の分も作っていることがわかる。画面はクラブに変わり、母がテーブルに座り、一人で白ワインを飲みタバコを吸っている。ラフな服装のニヤけた男が寄ってくるが相手にしない。アパートでは、ラファルが棚から皿を2つ取り出してテーブルに置く〔編集ミス。最初のシーンで皿は既に置いてある→1枚目の写真〕。そして、スパゲティの茹で具合を見て、塩を入れる。クラブでは、アルコールが十分に入って にこやかな表情の母に、スーツを着た男性が寄ってくる。今度は拒否しないで、逆に、「ハイ」と声をかける。偉そうに座った男性、「ここは初めてかい?」と訊く(2枚目の写真)。それに対し、口でキスして見せる母。軽薄な感じだ。しかし、男性が強引な態度に出ると、怒って「もう、家に帰るわ」と本気で嫌う。男は「君が好きだ」と言って去って行く。この直後、母はアパートに帰ったのであろう。ラファルがバスタブに入浴剤を入れて泡立てると(3枚目の写真)、「母さん、お風呂が入った」と呼びに行く。ベッドに倒れこんだ母は、「何なのよ、放っといて」と、怒り上戸と泣き上戸の合体状態。「お湯の入れ直し、これで4度目だ」。「それがどうしたの」。「お願い、来てよ」。手を取って、キスをしながら、「来て」と引っ張っていく。世話のやける母だ。バスルームに入ると、母は洗面台の前に座り込んで泣く。「灰皿持ってくるから、ドアに鍵かけないでよ」。
  
  
  

ラファルは急いで母のベッドに行くと、ハンドバッグの中身を全部空け、中から薬剤の入った小ビンを取り出す(1枚目の写真)。映画には薬剤は2度出てくるが、何の薬かの説明は最後までない。恐らく何かのドラッグなのであろう〔医者の処方薬なら捨てるはずがない〕。ラファルは、ハンドバッグの中身を元に戻すと、枕元の台に置いてあった酒ビンと一緒に台所の流しに持っていって捨てる。そして、あちこちの引き出しに入っている包丁をすべて1箇所にまとめ、ミニロフトに隠しておいたロープを取り出す。そして、全部の包丁を箱に隠す(2枚目の写真、矢印はロープ)。包丁を隠したのは、禁断症状が出たときにナイフで自傷しないようにするため、ロープは暴れた時の拘束用だ。11歳の少年が立ち向かわなければならない厳しい現実が短いシーンながら、ストレートに伝わってくる。準備が整うと、ラファルは左手に灰皿を、右手にロープを隠し持って母の前に現われる。「あたしって、ふしだらに見える?」。「まあね」。「なら、どうにかしてよ」。ラファルは、タバコを灰皿に入れると、蛇口をひねり、母の顔をごしごし洗いだす。「みんなお前のせいよ。普通に学校を卒業し… まともな仕事に就けてたのに… 代わりに、ちび助なんか できちゃった」。勝手につくって産んでおいてひどい言い方だ。ラファル:「後悔してる?」。母:「またそんなこと訊いたら、蹴っ飛ばして壁にぶつけてやる」。これも愛の表現か? というのも、最後は、母の「お前は、あたしの人生でたった1人の男よ」という言葉にラファルがニッコリするシーンで終わるからだ(3枚目の写真)。この2人の関係は、この出だしのシーンに凝縮されている。11歳の息子と30前後の母とは思えない、立場が完全の逆転した世界。しかし、2人の間には、一貫して強い愛情が流れている。だから、ラファルは かいがいしく母の面倒を見、どんな不幸な境遇に立たされても希望を捨てない。
  
  
  

場面は、急にラファルの学校へ。ラファルがサンドイッチを食べていると(1枚目の写真)、紺色の服の女の子が、泣いている赤い服の女の子と先生を連れてやってくる。先生は、ラファルに、「どうして、この子のサンドイッチ食べたの?」と訊く(2枚目の写真)。紺服の女の子は、「先週は、私の食べたんです」と告げ口。先生:「お母さんを連れてきなさい」。「もう しないって誓います」。「今すぐ家に帰って、連れてきて」。「母さんは、仕事中です」。ここで、また紺服がさらに出しゃばる。「嘘です。彼のお母さん、いつも家にいます」。そして、ラファルに向かって、「いつも部屋着でいるじゃない」と蔑んだように言う。「嘘だ! 仕事に行ってる」。先生:「それなら、お母さんに書いてもらいなさい。仕事先の名前と住所、勤務時間をね。さあ、行きなさい」。授業時間中に、こんなことで退出させるとは変な教師だ。仕方なくアパートに帰るラファル。アパートの入口には、タレコミ屋の嫌なおばさんがいて、ラファルを睨んで、後ろ姿に唾を吐きかける。ラファルは、アパートのドアをドンドン叩き、「母さん、開けてよ、いるんだろ!」と大声で呼ぶ。ドアが開く。「何なのよ?」。ラファルは用件の前に、姿を見て、「部屋着なんか着るなって、言ったろ! 何百回も言ってるのに!」と怒鳴る。先ほど、女の子にバカにされたのが余程悔しかったのだろう。母:「今、何時?」。「11時」。「学校に戻りなさい」。「戻れない。母さんが どこで働いてるか、紙に書いて持ってこいと言われた」(3枚目の写真)。これには母も困る。「誰が言ったの?」。「担任の先生」。「いらぬお世話じゃないの」。「僕、どうしたらいい?」。「さあ… 学校は避けるのね。レナ伯母さんのとこか、映画でもお行き。お昼は自分でなんとかするのね」。行き場のないラファルがアパートの中庭のベンチで天を仰いでいると、レナ伯母さんが「手を貸してちょうだい」と呼びかける。密売している酒瓶入りの大きな鞄を運んでもらうためだ。「お前はいい子だね。あたしの4人の夫は、どいつも役立たずだった」。
  
  
  

その日の夜、ラファルが、ベッドに座り込んで、ぬいぐるみを抱きながら理科の教科書を見ていると、母が階段を上がってくる足音が聞こえる。嬉しくなって、ベッドから起き上がって迎えに行こうとすると(1枚目の写真)、ドアが開いて入って来たのは、酔っ払った母と1人の男。母は、「ラファル」と声をかける(2枚目の写真)。がっかりしたラファルは、ベッドに入って寝たふり。母は、寝室に入って行き、男に向かって「スタンプ、持ってきたわね?」〔担当教師に要求された職場証明に使うための「店のスタンプ」を押したナプキン〕と訊き、「ラファル!」と起こそうとする。男:「寝かせておけ」。「いいわ、そうする」。そして、持ってきた風船に「朝、会いに来てね」とマジックで書き、「もう大丈夫だからね」と言ってキスして出て行く。母は男を自分の寝室に連れ込む。実はこの男、映画の最初に出てきたスーツの男なのだ。翌朝、ラファルが母を起こしにいくと、寝起きなので機嫌が悪い。「朝、会いに来てね」と書いてあるからと言って、無理矢理起こそうとするが、嫌な顔をして睨まれただけ。それでもあきらめず、「どこにいたの?」と訊く。「何の用なの?」。「また、飲んだの?」。「ほっといて」。「誰なの?」。「お前に関係ないでしょ!!」。「誰なの!?」。「関係ないって言ってる!!」。「誰も、家に入れないでよ! 特に男なんか!」(3枚目の写真)「この、ふしだらな尻軽女! 大嫌いだ!」。ラファルは、思い切り頬を叩かれる。
  
  
  

学校で。ラファルが教師に母の勤務先を書いた紙を渡す(1枚目の写真)。「何なの?」。「店のスタンプです」。教師が「カフェ・マルコット…」と読み上げる。「これ何?」。「母さんの勤め先だと思います」。昨日の赤服が「住所、持ってこいと言われたでしょ」とサポート。教師も命じておいて忘れるとはいい加減なものだ。授業が終わっても、昨日の2人組はラファルの後を離れない。白服(昨日の意地悪な紺服)が「お母さん、何してるの?」と訊くが、ラファルは無視。「なぜ、黙ってるの?」。赤服:「恥ずかしいのよ」。この後の白服の言葉は最悪だ。「お母さん、パンティー下ろして働いてるから」(2枚目の写真)。頭にきたラファルは、生意気な白服の口を押さえると、そのまま部屋の隅に引きずっていき、パンストの上からお尻を何回も叩く。あれほどひどいことを言ったので、当然であろう。そこに、赤服に呼ばれた校長(?)が駆けつけ、「何する気だ?」と、ラファルの首根っこを捉まえて引き離す(3枚目の写真)。校長は、部下に「すぐに母親を呼んできなさい!」と命じる。
  
  
  

学校に呼ばれた母と校長の一騎打ちが始まる。まくし立てるのは、もっぱら母だ。「生意気なガキをポカンとやったぐらいで呼びつけるなんて! この子のやったことは正しいわ」。「論点が違います」。「この子を侮辱した嫌らしいガキには、ちゃんと父親がいるんでしょ? でも、この子にはいない。あたししか。だからって虐めるなんて」(1枚目の写真)。「どうか興奮なさらないで。問題は彼が空腹で神経質になっていることです」。校長は、そう言うと、ラファルに昼食を調達するための申請書を書くよう勧める。母、ここでようやく論点の違いに気付く。「失礼。あんた、この子が空腹だと言ってるの?」。「そうですよ、大きくなったから、食欲もあります。実は、他の子のランチボックスから食べ物を取り上げたという苦情が出ています」(2枚目の写真、ラファルの目に涙)。母は、「ちょっと待って」と言うと、ラファルに、「正直に言いなさい。空腹なの?」と詰問する。返事は一言、「Nie」。母はラファルを抱くと、「この子は嘘は付かないわ! この、でっちあげは、何なの! 誰に言われたの! こんな学校出て行くわ。こんな風に侮辱するなんて!」(3枚目の写真)。母はラファルの手を引いて出て行く。最後に投げかけた言葉は、「目にもの見せてやるから、覚えてらっしゃい!」。
  
  
  

近くの公園でテーブルに座った2人。座っている方向が逆なので、ラファルには母の過激な言動が承服しかねることが分かる(1枚目の写真)。母:「深呼吸さない。神経が落ち着くわ」。ラファルは、溶けかけたアイスクリームを持ったまま、「今年に入って3つ目の学校になる」と悲しそうに言う(2枚目の写真、ここでも泣いている)。「だから? 別な学校に行けばいいでしょ」。「もし、きちんと学校に行かないと、教護院に入れられちゃう」。そして、ラファルは母と一緒に新しい学校に。「どうして、この学校に?」。「ヴィテックが、手配してくれたの」〔映画の最初に出会ったスーツの男〕。そう言いながら、母はラファルの髪を櫛でといてやり、ちゃんと見えるか確かめる(3枚目の写真)。「ヴィテックで誰?」。「あたしが知ってる人。頼りになる人よ」。そして、「緊張してる?」と訊く。「ううん」。しかし、始業ベルが鳴ると、母に思い切り抱きつく。どれだけ変な母親でもラファルはいつも、慕い甘えている。そこがいじらしいところだ
  
  
  

新しい学校の場面はこれで終り、シーンはその夜のアパートに変わる。母が、別の男を連れてくる(1枚目の写真)。ラファルは嘘でなく本当に寝ている。余程、遅かったのか、新しい学校で疲れたのか。ベッドサイドには電灯が点いたまま。母はラファルの頭の下から開いたままの本を引き出す(2枚目の写真)。「本を読みながら寝たのね」。それは5年生用の『Język i świat(言葉と世界)』という教科書だった。男:「あの子の名前は?」。「ラファル」。「何歳?」。「11よ」〔これは実年齢〕。「ぐれてる?」。「まさか。成績見たい?」。「ああ」。母は、ラファルのベッドの下から鞄を取り出して、成績表を見せる。オールAだ。これから分かるように、ラファルは実に頭のいい子だ。環境が悪いから苦労はしているが、決して悪い子ではない。そこが多くの類似の映画と違う点だ。従順で、頭がよく、いい子で、母思いで、「男好きでアル中で麻薬もやっている無責任な母」を必死で支えている。それがまた、何とも可哀想な点だ。また、この映画ほど、主人公の少年が涙を見せるのが多いケースは珍しい。ピックアップした写真でも、これまでに2回、この後6回は涙を流している。静かに涙を流すということは、感情を内に秘めて耐えるということを意味するので、ますますラファルが可哀想になる。母は、連れ込んだ男に、教科書を読んで聞かせていると、男が急に、「妻は、俺と寝て楽しかったことは一度もないと言った。セックス相手の男だと悶えるんだと」。可哀想になった母は、「子供は何人いるの?」と訊く。「娘が3人。母親似でバカばっかりだ」〔だから、最初にラファルのことを「ぐれてる?」と訊いた〕。「じゃあ、その男は?」。「密輸屋さ。長距離トラックの運転手で、密売品を持ってて税関も素通りなんだ」。苦悩する男は、「俺はどうすればいい?」と母に尋ねる。母は、「待ってて」と言い、何とラファルを起こしにいく。寝ていて起こされたラファル。母は、「いいこと。台所に男がいるの。男には奥さんと娘が3人いる。奥さんは密輸業者に寝取られ、男のことを愛したこともない、結婚は間違いだったって言うの。今日、それを知ったんだって、人生が破綻したと思ってる。彼をどうすべき?」(3枚目の写真)。「そんな男と関わっちゃダメだ」(4枚目の写真)。母は、酔っ払っていい気分でいる男に寄って行くと、コートを背中にかけてやって、アパートから出て行ってもらう。それにしても、わざわざ11歳の子を起こして、こんなことを訊くなんて、そして、その言葉に従うなんて、変わった母親だ。ラファルの判断は正しいが。
  
  
  
  

母が、帰宅途中、ヴィテックに付け回される。慣れていないので、怯える姿が映される。その後、ラファルが上の階に住むレナ伯母さんを呼んでくる。普段は冷静なラファルだが、ひどく動転している。伯母が浴室に連れていかれると、バスタブの中にはコートを着たままの母が倒れている。ヴィテックに追われたことでショック状態になったのだ。「母さん病気かな?」。「神経が高ぶってるだけさ。あたしの3番目の夫は、精神病院送りになったから、いろんな症状に詳しいんだよ」(1枚目の写真)と言うと、「あたしの部屋まで行って1本持っといで」と鍵を渡す。母に酒を飲ませたくないので渋るラファルに、母が「言われた通りにして!」。「飲んじゃダメだ!」。母は、「ウオッカを欲しい。早くお行きったら!」とラファルを邪険に追い払う。仕方なく伯母の部屋まで走って行き、棚の鍵を開け、中を覗くと10本以上のエクストラ・ジトニアのビンが並んでいる。ライ麦から作られるポーランドで一番有名なウオッカの会社だ。母にこんなものを渡さなくてはならないのかと思い、ラファルは泣きながらビンを取り出す(2枚目の写真)。ラファルがウオッカを浴室まで持って行くと、そこで母と伯母の酒盛りが始まる(3枚目の写真)。伯母:「薬は飲んでないのかい?」。「飲んでるように見える? あの子がみんな捨てちゃったの。このおせっかいな守護天使」。「僕は天使でも守護者でもないよ」。母は伯母に、「彼〔ヴィテック〕に毎日追われるの。脅かすのよ。つきまとって」。伯母は、大人の話なので、ラファルを出て行かせる。
  
  
  

別の日、ラファルがアパートに帰ってくると、中庭のベンチにかけていた男が「やあ、ラファル」と声をかけてくる。先日ラファルが、母に訊かれて、「そんな男と関わっちゃダメだ」とアドバイスした男だ。「ちょっと話せないか。男と男で?」。「時間がないよ。宿題やらないと」。「君の先月の成績見たよ。オールAだった。俺はスタショだ」。ラファルは、あの夜、自分の寝室で相談を受けただけで、相手の顔を見たわけではないので、面白そうに、「あの、密輸業者に寝取られた人?」と訊く。その言葉にカッときて、持ってきた1本だけのチューリップを振り上げた男だが、気を静め、「なあ、お母さんには、誰か男がいるのか?」と尋ねる。「僕がいるよ」(1枚目の写真)。「俺の言ってる意味、分かるだろ?」。ラファルは、「分からないし、知りたくもないね」と言って男と別れる。スタショはラファルの後を追ってドアの所までついて来て、「どうして、彼女を庇うんだ?」と訊く、「そんなこと、思ってんのか?」。「いいかい、お母さんの周りの人間の中で俺だけがまともなんだ」〔スタショは落ちこぼれの敗残者だが、確かに、ラファルの母に「まとも」な好意を抱いている〕。しかし、ラファルの容赦のない言葉は続く。「まともだって? いったいどこが? 家に帰って、奥さんと密輸業者を 何とかしたらどうだ。僕の母さんに構うなよ!」(2枚目の写真)。そして、ドアをバタンと閉める。
  
  

さっきの続き。ラファルはドアを閉めると、「母さん?」と言って部屋に入っていく(1枚目の写真)。するとそこには、初対面の男〔ヴィテック〕が、ずうずうしくもソファにそっくり返っていた(2枚目の写真)。さっきの変人はドアで追い払ったのに、こっちは、母もいないのに、勝手に部屋に入り込んでいる。恐る恐るヴィテックに近付いていくラファル。「君のお母さんは贅沢だな」と言って、手に持っていた母の服を脇に置く。「贅沢じゃない」。「贅沢じゃない?」。「お母さんとは、一緒にカナダに行ったかもしれないんだぞ。聞いてるか?」。「ここで うまくやってるよ」。「つけ上がるな。なんで学校に行っていない?」。「終わって帰ってきた。成績はオールAだ」。「だが、今年3つ目の学校だろ? すべてお見通しさ」。そして、ラファルの横に座ると、「お母さんは誰かと会ったか? 付き合ってるか?」と尋ねる。「うん」。「誰だ?」。「僕」(3枚目の写真)。「まじめに答えろ」。「まじめだよ」。「このひねくれ者め」。「何が目的なの?」。「私に訊かれたら、ちゃんと答えるんだ。分かったな」と言って、頭をつかんでベッドに押し倒され(4枚目の写真)、男はそのまま部屋を出て行く。自分のアパートでこんな扱いを受けたラファルは、悔しくてベッドで泣き崩れる。
  
  
  
  

その日の夜、母が酔っ払って歌いながら帰ってくる。すると、アパートの階段の下でラファルが教科書を開いて待っている(1枚目の写真)。「こんなとこで、何してるの?」。「なんで、あいつに鍵 渡したのさ」。「何 言ってるの?」。「勝手に他人が入り込むなんて許せない! 泣き喚く赤ん坊の子守なんかになりたくない!」。「どうしちゃったの?」。母は、ラファルの前に膝を付いて、「いつも誠実だって誓うわ」と言う。そして、ラファルは、自分のベッドで母に抱かれて寝ながら嬉しそうだ(2枚目の写真)。母の腕にキスをする。ラファルは、甘えっ子なので、母を簡単に許してしまう。
  
  

別な日。ラファルが伯母の部屋で宿題をやっている(1枚目の写真)〔これだけ真面目で、頭も良ければ、オールAは当然だろう〕。そこにノックの音がする。伯母がドアを開けると、そこにはタレコミ屋の嫌なおばさんと警官が2名。警官は「違法な酒の密売」に関する捜索令状を持っていた。「あたしのウチでかい?」。ニヤニヤとそれを見ているタレコミ屋。警官は、「台所から始めよう」と捜査を始める。それを居間の壁に張りついて聞いているラファル(2枚目の写真)。ラファルが前回開けた棚を調べると、中はウオッカのビンで一杯だ。警官:「あんた、何年前からウオッカを売ってるんだね?」。「戦争の時、ちょっとは売ったわよ。だけどお酒は売ってない。神かけて」。タレコミ屋が「勝手に神様の名を出しなさんな」と言う。本当に嫌な女だ。居間に入って来た警官。「この子は、ここで何やっとるんだ?」。「宿題ですよ」。タレコミ屋が、「クリスティーナ・トラチェックの子よ」言うと、警官が「こんなに大きくなったか」。「彼女、放ったらかしなのよ」。カチンときたラファルが「なんで、母さんにケチつけるんだ? それより、地下室で男の子とキスしてる娘の躾くらいしろよ」とズバズバ言う(3枚目の写真)。ラファルに飛びかかろうとするタレコミ屋を警官が制止する。「落ち着け。お前さんがここにいるのは、目撃者だからだ」。そして、今度はラファルに、「ウチに帰れ。ここはお前のいる場所じゃない」と言うが、ラファルの返事は「鍵を持ってない」。その時、警官が例の棚を開けて、「あった」と言う。しかし、入っていたのは2本だけ。伯母:「クリスマスに飲もうかと…」。警官はタレコミ屋に「あんたの言い分は?」と訊く。女は悪びれる様子もなく、「もめ事を起こすつもりはないわ」と言っただけで伯母に謝りもしない。この女は、ラファルの今年2つ目の学校でお尻を叩かれた性悪娘の母親だ。この母にしてこの娘ありといったところか。警官たちが出て行くと、ラファルは、伯母が酒を未だに大量に持っていることを非難するように、自分の学校の鞄に隠しておいたウオッカのビンを 憮然とした顔で取り出す(4枚目の写真)。
  
  
  
  

今年3つ目の学校での初めてのラファルの授業風景。教師が宿題を返却するが、そこには、評価「2」と書いてある。どのような評価体系かは知らないが、かなり低かったらしく、ラファルは、「すみません、このどこが悪いのですか?」と質問する。「内容はとてもいいわ。でも、君が書いたんじゃない」。「もし、僕が自分でやったのなら、評価は違いますか?」(1枚目の写真)。「A+よ」。「なら、直して下さい」。「何を言い始めるの? 君の年じゃ、入り組んだ従属節の文章は書けないわ」。「僕は、子供じゃありません。ラファル・トラチェックです」。「宿題を寄こしなさい」。そして、宿題を受け取ると、「譴責を書き加えるわよ」と言って持って行く。非情で無能な教師だ。その場で何か書かせてみてチェックすべきなのに、思い込みでラファルを侮辱するのは許せない。怒ったラファルは、立ったまま成績表をちりぢりに破って(2枚目の写真)、教師めがけて投げつける。机の上に載っていた他のもの、最後には、鞄も投げる。ラファルはショック状態になり、医者が駆けつける状態に。校長室(?)に呼ばれたラファルと母。「メンタルクリニックへの紹介状です」と校長(?)から渡された紙を見て、「この子が 何をしたの?」。「宿題の点が悪かったので、成績表を破りました」。母は、すぐ「そんなことする子じゃないわ!」と言い返す。ラファルは、それを聞き、「先生は言ったんだ。僕が自分で書いたんじゃないって」。それを聞いた母は怒り出す。「じゃあ、誰が書いたの? 法王? この子の宿題助ける者なんて誰もいない! 全部自分でやってる。あたしは働いてるし、父親はいない」(3枚目の写真)。「他から借りた文章だと…」。「この子は書くのが上手なの。あんたは、それを理解しようともしない! 勝手にしたらいいわ。行くわよ、ラファル」。校長が、「その子をやめさせるつもりですか?」と尋ねると、「そうよ、さよなら」と言ってラファルと一緒に出て行くが、言い足りなかったらしく、1人戻って来て、「授業で息子を虐げたって告訴してやる」と捨て台詞を投げつける。かくして、3つ目の学校とも お別れとなった。
  
  
  

クリスマス・イヴのお祝いをする母と伯母。テーブルの真ん中に置いてある金魚入りの大きなフラスコは、「密輸業者に寝取られた男」が、あきらめずに持って来て、ドアでラファルに追い返された時に残していったものだ(1枚目の写真)。ラファルが、台所から料理を運んでくる(2枚目の写真)。伯母が、「こんな息子をもって、神様に感謝しないと」言うので、テーブルの料理はすべてラファルが作ったのだろう。そして、プレゼントの時間。ラファルが大きな紙包みを取り上げ、「サンタから母さんへ」〔ラファル→母〕。中味は暗赤色の部屋着。「クリスティーナとラファルへ」〔伯母→母子〕は、頭すっぽりのニットキャップ。伯母の手編みだ。最後の「ラファルへ」〔母→ラファル〕は、スケート靴。ラファルは大喜びだ(3枚目の写真、矢印がスケート靴)。
  
  
  

その後、母は、「見せるものがあるの」と言って、小さな真珠のついた指輪を取り出し、指にはめて見せびらかす(1枚目の写真)。心配になったラファルが、「それ誰にもらったの? スタショ?」と訊く。「なんで、スタショがくれるのさ」。伯母が、「彼〔ヴィテック〕は あんたを愛してるんだよ。絶対だよ」と言うものだから、ラファルが「結婚するの?」と尋ねると、「いい成績を取りなさい」とはぐらかされる。「取ってみせる」(2枚目の写真)。「いい成績とれば、お役人になれる」。「じゃあ、なるよ」。「一粒種なんだから、教育を受けて、偉くなるのよ」。深夜になって母子はスケートリンクに出かける。ラファルは上手に滑るが、母は全くダメ。しかし、仲の良い2人は、一緒にクリスマスソングを歌い、ラファルは母に抱かれて氷上に横たわる(3枚目の写真)。ラファルは、怒ると猛々しいが、母親がまともなときは実に甘えん坊だ。
  
  
  

明くる日の夕方。母はまだ寝ている。ラファルは、怪しいと睨んで、薬を探し始める。まず、金魚鉢の横に置いてあったバッグをひっくり返すが(1枚目の写真)、前と違ってそこにはない。母も用心している。そこから、ラファルによる徹底的な家捜しが始まる。母のベッド中を捜すが、どれだけ体を動かしても、全く目が覚めない。薬のせいだ。衣装ダンス、台所の棚(2枚目の写真)や引き出し。どこにもない。最後に目を付けたのがミニロフトに置いてあったコーヒーの手挽きミル。ハシゴを登って行ってミルの引き出しを開けると(3枚目の写真、矢印)、そこには大量の錠剤が隠されていた。台所の流しに持っていって砕いて捨てる。その時の母を見る眼差しが悲しげだ(4枚目の写真)。
  
  
  
  

ラファルは、伯母のアパートに行き、「母さんがまだ寝てる」と不安げに話す。「飲み過ぎたのさ」。「母さんの様子が変なんだ」。「恋に落ちたとか? 困ったね」(1枚目の写真)。そう言いながら、伯母は、テーブルの真ん中に酒の入ったクリスタルボトルを置く。ラファルの反応は早い。「これ何なの?」。「乾杯のためだよ」。伯母は鳥のローストを見に行き、ラファルに「母さんを連れて来て」と声をかける。ラファルは、これ以上母が酒を飲まないよう、ウオッカの棚に鍵をかけて、鍵を抜き取る(2枚目の写真、矢印)。そして、母のアパートに戻ると、フトンを剥ぎ取り、「起きろよ! ディナーができてるのに、何だよこのザマは!」と怒鳴って、足を引っ張り(3枚目の写真)、ベッドから引きずり降ろす。落ちたショックで、母も、さすがに目が覚める。すごく不機嫌な顔だ。
  
  
  

ディナーが済み、ラファルと伯母は楽しそうにTVを見ているが、母は不機嫌な顔でタバコをふかしている。テーブルの上に置いたボトルが空になり、伯母が「1本持って来ておくれ」とラファルに頼む。ラファルは、棚まで行き、「鍵かかかってる。鍵はある?」と、そ知らぬ顔で訊く。伯母の首にはかかっていない。「困ったね!」。そして、ラファルを見て、「何か企んでないかい?」と疑う。それまで無関心だった母が、急に怖い顔で、「来なさい」とラファルを呼びつける。そして身体検査をするが何も出てこない。母は、「下に行って持ってくるわ」と立ち上がる。「母さん」と止めるラファルに、「構うのはやめなさい」と冷たく言って1人で降りて行く。残されたラファルは、悲しくなって伯母にもたれて泣くが、「鍵はどこかに置き忘れたんだよ」の言葉にハッとして母を追う。母は、ラファルが薬を隠したと思って、探しに言ったのだ。ラファルが下に行くと、ドアは開けっ放しで、中から物が割れる音がする。母が、あらゆる引き出しを中味ごと出し、床にぶちまけていた(1枚目の写真)。「何、探してるの?」。「錠剤。特別な処方なの」。「母さん」。「隠したね?」。「捨てたよ」。「寄こしなさい」。「捨てたってば」。「お願いだからちょうだい」。「処分してくれって言ったじゃない。ほんとだよ、ここに捨てたんだ」と台所の流しを指す(2枚目の写真)。「寄こしなさい」。「だから、できないよ」。「お願い…」。「また手首を切るの? それとも、窓から飛び降りるの?」。その言葉を聞いた母は、衝動的に窓に向かって走り、窓を全開し、桟の上に立つ。「母さん! やめて!」(3枚目の写真)。母は、飛び降りるのを思い留まると、差し出されたラファルの手につかまりながら泣き出す。ラファルは、いつも隠し持っているロープを取り出すと、母が自傷行為をしないよう、両手をロープで縛る。縛るラファルも、縛られる母も泣いている(4枚目の写真)。実に切ないシーンだ。
  
  
  
  

翌朝、役人らしい女性と警官がやってくる。警官が母の名前を呼ぶ。伯母が「寝てるよ」と言うと、女性が「起こしてちょうだい」と言う。「自分でおやりよ」。女性は「起きて」と言うが無反応。そこでフトンをめくると、ロープでぐるぐる巻きにされた母に、ラファルがしがみ付いている(1枚目の写真)。「何が起きたの。誰が縛ったの?」。母が「インディアン」と始めて口をきく。女性が伯母に「あんた誰?」と訊くと、返事は「ウィナトゥ」〔ドイツの作家が書いたアパッチ族のヒーローの名前〕。「虚偽の申し立ては罰せられるわよ」。生意気な女性だ。母は、「いったい何の用?」と訊く。警官:「あんたは逮捕された。これから連行する」。ラファルは「嫌だ!」と激しく抵抗する(2枚目の写真)。「この子も連れてつもり?」。「その子は養護施設。あんたは親権を剥奪された。裁判所命令よ」。「裁判って?」。「あったけど、あんた審問に来なかったじゃない」。そして、「それに、子供を1人で残しておけないでしょ」と言ってラファルを引き離そうとする。母は、「その女を蹴っ飛ばして」「噛み付いて」とラファルに叫び、女性に後ろから抱えられたラファルは手に噛み付く。この必死の抵抗を見て、数分だけ母子で話す機会が与えられる。母:「愛してるわ」。ラファル:「愛してるよ」(3枚目の写真)「オールAとるから」。「Bでもいいわよ」。
  
  
  

ラファルは児童養護施設に送られる。クリスマス直後だけに外観が寒々としているが(1枚目の写真)、1969年の孤児院を描いたデンマーク映画『Der kommer en dag(いつかきっと来る日)』(2016)では、少年院のような極悪な環境だったのに、Janina Zającówna による1985年の原作に基づいたこの映画では、すっかり様変わりしている。ラファルが案内された部屋が、ベッドのずらりと並んだ大寝室であることに変わりはないが(2枚目の写真)、食堂は男女一緒で、着ているものもカラフルで、明るいムードだ。
  
  

ラファルが食べていると、監督生のような(赤い腕章を付けた)少年が来て、「お祖母さんが来てるぞ」と伝言する。「お祖母さんなんかいない」。「本当だ。食べ物を山みたいに持ってきた」。その話に興味を持って、ラファルも付いていく。そこにいたのはレナ伯母さんだった。両手を拡げて迎える伯母に走り寄って抱きつくラファル。「母さん、どうなった?」(1枚目の写真)。「刑務所だよ」。「誰か殺したの?」。「何を言い出すの。カフェでケンカしただけさ。いつも もめ事起こしてたからね」。侘しい話はこれで終わりで、後は、ラファルのために持ってきたものが渡される楽しいシーン(2枚目の写真)。見ている監督生も羨ましそうだ。
  
  

その夜、ラファルはベッドの中で、母からの手紙を見ている。手紙には、キスマークがいっぱい付いている。「最愛の人。唯一無二の愛しい人。ここは、そんなにひどくありません。それは、あなたのことをいつも考えているからでしょう。あなたの目や微笑みを夢に見ます。あなたの笑顔が大好きでした。私の最低の人生が好転し始めようとした矢先だったのに。あなたに会いたくて たまりません。あなたに辛く当たったけど、変わると誓います。私には何も送らないで。特赦に望みをかけています。弁護士を探して。家賃も払って下さい。きっと、復活祭(1985年なら4月7日)には会えるでしょう。1022回のキスを送ります。大好きです。愛を込めて。永遠にあなたのもの」。内容に意味不明の部分もあったが、そこは子供らしく読み飛ばして、手紙にキスするラファル。
  
  

翌日、ヴィテックが訪ねてくる。相手が母ではないので、服装もラフだ。「ラファルか?」。「そうだけど」。「ヴィテックだ」。そして片隅へ連れて行くと、「ここに君への手紙がある。お母さんは、それを間違った封筒に入れた」と言って、自分宛に届いた封筒を見せる。「お母さんから、手紙を受け取らなかったか?」。これは、ラファルにはショックだった。昨夜呼んだ「愛に満ちた」手紙は、自分ではなく、この男に送られたものだった。「最愛で、唯一無二の愛しい人」は自分ではなく、こいつなのだ! 当然、ラファルは、「ない」と睨みながら否定する(1枚目の写真)。ラファルは、間違って届いた手紙を受け取ると、さっさと去って行く。ヴィテックは、「ラファル。何か要る物は? お金は?」と声をかけるが、返事は「要らない」。しかし、母のことを思ったラファルは立ち止まり、「母さんには弁護士が必要だよ、それに、誰かが部屋代を払わないと」と、昨夜の手紙に書いてあったことを伝える(2枚目の写真)。どれだけ悔しくても、裏切られても、常に母想いのラファル。変なようだが、私が一番感動した部分だ。ヴィテックは、「ちゃんと手配してある」と言って、ラファルの髪を撫ぜようとするが、ラファルはそのまま走り去る。母への心配は変わらないが、自分への愛を母から奪った男は許せないのだ。
  
  

春になり、ラファルが仲間と一緒にサッカーで遊んでいると、遠くから「ラファル!」と呼ぶ声が聞こえる。母だった。汗と泥まみれの顔で喜ぶラファル(1枚目の写真)。母は、すごく派手な服を来て、仲間の少年たちを驚かせる。2人は野原で派手に抱き合い、母は、ラファルをキス責めにする(2枚目の写真)。それを遠くから見ている少年たちも、羨ましいというか、呆れて見ている。2人の行動があまりにあけっぴろげで、甘ったるいからであろう。やり過ぎだぞ、と1人の少年が、ボールを足で蹴ってラファルの頭にポコンと当てる。母は、そのボールを拾うと、少年たちと一緒に遊び始めた。もう夕方なのに、話す時間がなくなってしまうので、ラファルは「母さん、行こうよ、遅くなっちゃう」と呼ぶ。ラファルのところに戻って来た母は、「家には連れて帰れない」と意外なことを言う。「どうして?」(3枚目の写真)。「行くところがないの。アパートは子供連れに貸しちゃったから」。「じゃあ、母さんはどうするの?」。「レナ伯母さんのところに」。暗くなっても、2人は野原で話し続ける。「刑務所には、もう戻らなくていいの?」。首を振る母。そして泣く。「心配しないで。僕なら、ここで我慢してるから。だけど学期末には来てね。6月20日だよ。忘れないで」(4枚目の写真)。2人とも泣いている。その時、目の前の道にバスが来る音が聞こえ、母は手をあげてバスを停め、1人立ち去って行った。
  
  
  
  

それからしばらく経ち(数日か、1ヶ月単位かは不明)、夜、道路で手をあげてヒッチハイクしようとするラファルの姿があった。誰も乗せてくれないので、朝まで歩いてアパートに辿り着いたラファル。手に黄色の花の付いた枝を持ち、疲れ果てた足取りで階段を登る。自分のアパートの前までくるが、「子供連れに貸しちゃったから」「レナ伯母さんのところに」の言葉を思い出し、そのまま、また階段を登り始める。6段ほど登ったところで、アパートのドアが開き、ドアの外に置いてあった牛乳ビンを誰かが入れようとしている。何気なく振り返ったラファルが見たものは、母の姿だった(1枚目の写真)。ラファルは、再び階段を降りていくと、無言で花の枝を母に差し出す。顔は、黒く汚れている。原作を読んでいないので状況は不明だが、ひょっとしたら1晩では歩けないほど遠くて、野宿したのかもしれない。
  
  

母は、珍しくエプロンなどしている。ラファルが見たことのない姿だ。母は、ラファルを招じ入れると、台所のテーブルに座らせ、スポンジで汚れた手を拭く(テーブルを汚さないため~顔は拭かない)。「母さん、出てったの?」(1枚目の写真)。「誰が?」。「子供連れの人たち…」。その時、クリスティーナ、バスローブはどこだ?」という声が聞こえる。茫然とするラファル。母が飛んで行き、暗赤色のバスローブを着たヴィテックが新聞を持って現れる(2枚目の写真)。母は、「ヴィテックさんよ。とっても良くして下さったの」とラファルに話す。諦めと悲しみの混ざった顔で、スクランブルエッグを作っている母を見るラファル(3枚目の写真)。母が料理するところなど、ラファルは見たことがなかった。ヴィテック:「覚えとけ。俺は、火が通り過ぎたやつは嫌いなんだ」。「はい」。母は、全く変わってしまった。
  
  
  

ラファルの部屋はヴィテックに占領されていた。「僕の部屋に寝てるの?」。「しばらくの間よ。今、もっと大きなとこを探してる」。それにしても不思議なのは、ヴィテックにアパートはないのだろか、という点。どうして母のアパートに住まなくてはならないのかが、よく分からない。ラファル:「愛してるの?」。母:「ええ」。「そんなに昔じゃないよ、違うこと言ってから」。「何て?」。「『お前は、あたしの人生でたった1人の男よ』って言った」(1枚目の写真)。「ラファル、それは変わってないわ」。「僕の部屋も、僕があげたバスローブもあいつのものだ。クリスマスに買ってあげたやつ。僕を孤児院に入れといて、あいつのために卵料理。今まで一度だって作ってくれなかったのに」。しばらく黙っていた母は、「愛してるわ。ひどいことになってるのは分かってる。あたしのせいよ」(2枚目の写真)「でも、今に全部変わる。お前にもスクランブルエッグ作るし、食事も作る。ずっとそうしたかったの。もう薬も飲んでない。嬉しくない? 夜も早く寝てるし。お前が望んでたように」。そして、最後に、「信じて。これが最後のチャンスなの。失望させたけど、お前は、今でもあたしの人生でたった1人の男。彼は夫なの。愛してると言ってくれた。一生の伴侶だって。『いいよ』と言って。お願い」。しかし、ラファルは何も言わずに立ち上がると、そのまま部屋を出て行く(3枚目の写真)。
  
  
  

6月20日、養護施設で学期末の式典が行われている。ラファルは、最優秀の生徒に対する表彰を受けた(1枚目の写真)。式典が終わると、それぞれの少年少女は、迎えにきた親戚や関係者に引き取られていく(2枚目の写真)。誰も現れなかったのはラファルだけ。式典に使われた赤い布をかけたテーブルに腰を掛けて、ラファルは1人ぽつんと待っている(3枚目の写真)。
  
  
  

そこに、花嫁衣裳をまとい、花束を持った母が1人で現れる。ラファルに近付いていくと、隣に腰を掛ける。「今日は」。「遅刻だ」。「お化粧してたの。時間がかかるの知ってるでしょ」。母は、カラフルな証書を手に取ると、「傑出した素行」と読み上げる。嬉しそうな母の顔を見て、「約束した通り、オールAだよ」と言って成績表を渡す(1枚目の写真)。「部屋が寂しがってるわ」。「それで彼は? 出てったの?」(2枚目の写真)。「お前を待ってるわ。あたしたち2人とも。一緒に来る?」。「行かない」。ヴィテックは、タクシーと4人の楽師を乗せた小型トラックのところで、2人の来るのをイライラしながら待っている。母と子は、黙ったまま並んで座っている。待ち生きれなくなったヴィテックが、2人から見えるところまで行き、腕時計を指して、いつまで待たせるんだ、と意思表示する。それに対し母も、向こうに行ってて、と手で意思表示。ヴィテックは、両手を拡げて、どうしたらいいと意思表示。言葉のやりとりは一切ない。母は、もうちょっと待ってて、の一点張り。母としては、何とかラファルの了解を得たいのだ。
  
  
  

ヴィテックは、車に戻ると、楽師に「もう帰っていいぞ」と言い、小型トラックとタクシーが去って行く(1枚目の写真)。それを平然と見送る母(2枚目の写真)。2人は顔を合わせると、テーブルから離れて、どうなったのか道の方に出て行く。誰もいなくなったように見えた道路だが、少し離れたとこにヴィテックが壁にもたれて立っている。それを見たラファルは、男が母を愛していることを悟り、1人でヴィテックのところに走っていく(3枚目の写真)。そして、手を取ると、母の方に引っ張ってくる。最後は、3人が一緒になって道を歩いて場面で終わる(4枚目の写真)。最後の結末は、少し唐突な印象を受ける。3人でなく、母とラファルの2人だけが手をつないで歩いて行く、というエンディングの方が自然な気がする。それは、映画の中で、それまでヴィテックがラファルに対してとってきた態度が、あまりに非好意的だったからだ。
  
  
  
  

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